台湾「唐奨」受賞の余英時氏 「現代にも通用する儒学の思想」(CNA)

2014.07.02
  • Yu Ying-shih, 2014 Tang Prize laureate in Sinology
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CNA

台湾「唐奨」受賞の余英時氏  「現代にも通用する儒学の思想」 (台北 20日 中央社)2014年台湾「唐奨」の漢学賞を受賞した米プリンストン大学名誉教授の余英時氏はニュージャージー州にある自宅での取材に対して、李遠哲・前中央研究院院長から受賞の知らせを電話で受けた時、「思いがけないことに恐縮した」と受賞の喜びを表し、研究対象である儒教の思想について熱く語った。

余英時氏は今年84歳。2001年に退職するまで米国の名門大学や香港で教鞭を執り、2006年には人文学のノーベル賞と呼ばれるクルーゲ賞を受賞した。中国の歴史・思想・文化を現代の視点から深く探求し、中国思想史・文化史の第一人者として知られる。

退職後も中国の文化や思想について研究し著書を出している余氏は、儒家思想は“人”に対してではなく“人文”の伝統だと指摘。孔子の「己の欲せざる所、人に施すことなかれ」と西洋の「自分の望むところを他人にも施せ」は似て非なる考え方で、儒家思想のほうが個人を重んじ、集団内部での違いを尊重するため妥協や譲歩を生み出す余地を残し、より理にかなっていると語る。

また、孔孟思想が古びて遅れた思想だと思われがちだということについては、中国の古い伝統が現代の考え方と真っ向から対立することはなく、宋の朱熹が君権をいかに御するかを説き、明の王陽明が「理(人の良知や利益)は事(皇権)より重し」と説いている例を挙げ、儒家思想では君臣上下だけでなく自由平等も重んじると強調した。

余氏は台湾に定住した経験はないが、台湾・中国大陸双方の学術界には友人が多い。特に知識人の立場から文化・社会に関心を持ち、両岸の民主化運動にも常に心を寄せてきた。1989年の天安門事件の後、劉賓雁、蘇暁康、孔捷生といった知識人や学生リーダーを受け入れたプリンストン中国学社の設立には余氏夫妻も関わっている。台湾社会についても、最近の学生運動に言及したほか、選挙で総統(大統領)や議員を選ぶことができる時代は長い中国史上他になかったと称賛。中華民国はその自由と民主の価値を守り続けるべきだと指摘した。

プリンストン郊外の竹林のそばにある住まいで、夫人と共に静かな日々を送っている余氏。今の若い人たちへのメッセージは「真面目に働き、シンプルに生きなさい」だった。